10:00
『おはようございます。
 ただ今より、ジュノ下層知事選挙の投票を開始いたします。
 投票は、ル・ルデの庭・北サンドリア・バストゥーク商業区・ウィンダス石の区に派遣
されている専用NPCから投票を行うことができます。
 投票締め切りは18:00までです。
 繰り返します、投票締め切りは18:00までです。
 多くの方の投票をお待ちしています。』

10:03
「ちょっと待ってください。マヤ候補が誘拐されたんですよ?投票を行うんですか?」
 投票開始の告知に反応したのはカレンだ。
p 「えー……そうなのですけれども。我々ジュノ選挙管理委員は公平な選挙活動の円滑な運
営と監査が仕事でして。投票期間を遅らせる程の権限は無いんです。」
 カレンの疑問にチュウタツは、ひたいに流れる汗を拭きとりながら答える。
「なあ。そんなことより、そいつの話を聞いた方がいいんじゃないか?」
 アルトニオが会話に入る。あいつとは吟遊詩人の酒場に入ってきた男だ。
「そうでした、カチェアさん。貴方ジュノ選挙管理委員から派遣されたボディーガードな
んでしょう?なぜ今ここにいるんですか?」
 吟遊詩人の酒場に入ってきたのはカチェアだった。そのカチェアにカレンは叫ぶ。
「お、お待ちください、カレンさん。ボディーガードとはどういうことでしょうか。ジュ
ノ選挙管理委員にカチェアという者は所属していません。」
 ひたいに、より一層汗をにじませながらチュウタツが話す。
「なんですって?カチェアさん貴方いったい何……」
「私が説明します。」
 カレンが叫ぶのを遮る様に話すのはアリスだ。
「私の話を聞いてください。
 このカチェアは私がマヤ候補に派遣させました傭兵です。それは私の元に昨日、マヤ候
補誘拐の可能性があるとの報告が入ってきたためです。
 そして、私はカチェアに、もし本当にマヤ候補が誘拐された場合は何所に収容されたの
かを、調べて私に報告するように指示していました。」
 アリスは簡単に要点をかいつまんで説明する。
「ちょっと、マヤ候補が誘拐されるのを知ってて黙ってたんですか?」
「あら。選挙は情報戦です。私はマヤ候補の行方の手かがりを教えようと言ってるのです
よ?
 感謝されることはあっても、恨まれるいわれはないです。」
「うぐ……」
「悪いな、カレンさん。うちのアリスはすぐに行動するタイプなんだ。」
 カレンをアリスは軽くあしらう。それをアルトニオはフォローする。
「でも、アリスさんが、なぜマヤ候補の収容先を知る必要があるんですか?」
「万が一でもマヤ候補が誘拐されれば疑われるのはアルトニオ候補よ。無実を証明できる
材料があった方がいいじゃない。」
 カレンの疑問にアリスは簡単に答える。
「いいかしら?ではカチェア。皆さんの前で報告しなさい。」
 アリスはカチェアに指示する。

10:17
 酒場がざわつく。
 それもそのはずだ。誘拐事件を一気に解決に導く手掛かりが舞い込んできたのだから。
「では、報告いたします。」
 カチェアは背筋を伸ばして報告をはじめる。
「8:52分に吟遊詩人の酒場前にて爆発が発生。その混乱に便乗して黒の鎧を全身に身につ
けたミスラが、マヤ候補に近づき当て身をします。マヤ候補はその一撃により気絶した様
子です。
 マヤ候補は白魔道士ではありますが一介の冒険者です。そのマヤ候補を一撃の当て身で
悲鳴すら上げさせず気絶させられる所を見ますと、このミスラは手慣れと推測されます。
 その後、ミスラはマヤ候補の肩を持って移動します。移動先は海神楼の奥の部屋です。
 一通りの動作にかかった時間は16分です。周到に計画されていたものと推測されます。
 以上です。」
「御苦労さま。報酬はいつもの様に。」
 カチェアは一礼すると壁際に引き下がった。
「海神楼の奥か……天晶堂が絡んでいる可能性が高いとなると。ちと、厄介な事になるか
もな。」
「えぇ。うかつに近づくと危ないかもしれないわね。」
 アルトニオとアリスが、いま入った情報を吟味している。
 天晶堂という単語が出てきたが、アルトニオとアリスは何の事がわかっている様子だ。
しかし、他の面子はどうかというと、サンは大体予想は付いているという感じで、カレン
とチュウタツは噂を耳にしたことがある程度といった感じだ。
「あの、天晶堂とは。」
「私も、天晶堂というのは名前を聞いたことがあるだけで。」
 カレンとチュウタツが同じ質問を揃って投げかける。
「あぁ。天晶堂ってのは、一見さんお断りの会員制ショップのことだ。その天晶堂のジュ
ノ支店が海神楼の奥にあるんだよ。」
 アルトニオが簡単に説明をする。
「で、でしたら。その天晶堂さんに協力を仰げばいいのではないでしょうか。」
 チュウタツは今の説明に希望の光が見えた様だが、アルトニオはアゴをさすりながら考
える。
「んー。そう、うまい感じにいくかわからない。
天晶堂は常に中立の立場を取っているからな。ギルさえ払えば危ないアイテムも揃える
し、顧客を守るのが天晶堂だ。まあ、ある意味正しい商人の在り方ではあるんだが。」
「そうね。もし、例のミスラが天晶堂の上客だったら、いくらギルを積んでも天晶堂が引
き渡してくれるとは思えない。」
 アルトニオとカレンは表情を曇らせる。その2人の表情を見たら、カレンとチュウタツ
も浮かない表情になってしまう。
 一気に事件解決かと思えたのだが、やはり簡単にはいかない。そんな空気が酒場を包み
始める。
「ふふふ。こういう時こそ私の出番ね。」
 この重たい空気の中で、まさかの笑い声はサンだ。
「私の情報網を舐めてもらっては困りますわ。
 思うに、さっきの爆破で使われた爆弾。これは間違いなく、犯人が天晶堂で仕入れたも
のでしょう。もし、一介の冒険者が作ろうと思ったら、かなり高位の錬金術の心得が必要
となりますからね。
 天晶堂から爆弾を買える程の天晶堂の信用と財力、そしてミスラ。これだけのファクタ
ーがあれば、このミスラが何者だか調べることができますわ。」
 サンが腕を組みながら、犯人の素性を調べると堂々と宣言した。
「ひゅー、さすがサンちゃん。頼もしい。」
 サンの雄姿を見て、何故か大喜びのアルトニオである。
「だから、ミスラの事は私が調査しますわ。
 貴方たちは天晶堂へ乗り込んだらどうですの?誰か天晶堂の会員はいないのですか?」
「俺、会員だよ。」
「私もそうよ。」
 アルトニオとアリスが手を挙げる。でも、乗りこむのには余り乗り気でない様だ。
 天晶堂は辺境の地まで行かないと買えない様な珍しいアイテムをジュノで買うことがで
きる。ここで、騒ぎを起こして出入り禁止になったりしたら面白くない。合成職人である
2人なら尚更のことだ。
 そのために、踏み込めない所がある。
 そうはいっても誘拐事件を放置するわけにもいかない。
「だあー乗りかかった船だ。いっちょ天晶堂にカチ込みに行くか。」
「は、はい!ありがとうございます。」
 アルトニオが奮起して立ち上がる。それに連れられ、カレンも立ち上がる。
「そう言うと思ったわ。しかたない、私も行きましょう。
 カチェア。貴方には伝令になってもらうわ、付いてきなさい。」
「アリスさんも、カチェアさんも。ありがとうございます。」
 アリスはしぶしぶ立ち上がるが、カレンには心強い味方が増えた。
「よし。そうと決まればサクッと終わらせちまうぞ。
 一曲歌うから、ちょっと待ちな。」
 アルトニオは急に手を胸に当てて歌い始める。
 すると、アルトニオとアリス、カレン、カチェアは羽根が生えたのかと思うほど体が軽
くなる。
「すごい!チョコボのマズルカですね。」
「ああ、そうだ。これで天晶堂まで走って5分くらいで付くだろう。」
 4人は各々が愛用している武器を佩いて、戦闘態勢にはいる。
「私は、選挙管理委員の仕事と、対策本部の指揮がありますので残りますが、微力ながら
私も情報収集をいたいます。」
「私も、ここに残って例のミスラの事を調べますわ。
 モンテカルロ。こっちに来なさい。」
 サンが呼んだのはマネージャーのグラサンガルカだ。
「モンテカルロですって。どこかの小国みたいな名前ね。」
「ああ。モータースポーツの聖地だな。」
 グラサンガルカの名前を知って、アルトニオとアリスは何やら小声で話すが周りは誰も
きづかない。

10:42
 アルトニオ、アリス、カレン、カチェアの4人は軽くなった体で颯爽と走る。
 天晶堂は酒場から出てモグハウスのある方向を行き、競売場を過ぎたあたりにある。
「しかし、どうするかな。天晶堂の定員に問いただすか、それとも力技で行くか。」
 アルトニオは走りながらアリスに相談する。
「揉め事は得策ではないわ。でも、私達だって、そこそこ常連のはずよ。」
「ああ、そうだな。とりあえずアトリを問いただしてみるか。」
 アルトニオの言うアトリとは、アトリ=ツトリという天晶堂きっての武闘派タルタルで、
辺境の地からの商品輸入を仕切っている。
 そのため、辺境の地でないと手に入らない合成素材を頻繁に買っているため顔なじみに
なっている。
 2人が打ち合わせをしている間に天晶堂はもう目の前まで来ていた。

10:48
 4人は海神楼の奥にある扉の前まで行く。扉の前には、この辺りでは見かけない赤を基調
にした鎧を着たヒュームが立っている。
「お客様申し訳ありません。この先はスタッフルームになっています。受付は後ろにござ
いますので、そちらをご利用ください。」
 赤い鎧のヒュームは丁重に、引き返すように促す。
 その時、カレンが何かを言いだそうとしたが、アルトニオがそれを制止する。
 そして、赤の鎧のヒュームにアルトニオとアリスは天晶堂の会員証を提示する。
 その会員証を確認すると、赤い鎧のヒュームは一礼する。
「失礼いたしました、アルトニオ様。アリス様。後ろのお二人様は?」
 赤の鎧のヒュームが聞く。後ろの2人とは、カレンとカチェアのことだ。
「天晶堂に入会させたいんだ。俺達が後見人になる。」
「左様でございますか。天晶堂はお二人様を歓迎いたします。
 どうぞ中へ。」
 赤の鎧のヒュームは扉を開けて4人を招き入れた。

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