11:00
 扉を抜けると、すぐに階段を下りる。だんだん狭くなる廊下を抜けると、会員ショップ
天晶堂の店内に入る。
 店内はあまり見かけない東方の武器類を豊富に扱っているのがわかるが、クフォンやミ
ンダルシアでも良く見かけるアイテムも多いので、品揃えに国籍はない。
「ここが、天晶堂……」
 カレンが漏らす。
 赤い鎧を身にまとった店員が丁寧に頭を下げる。
「こっちに知り合いの店員がいる。そいつに話を聞いてみよう」
「は、はい」
 アルトニオと共に、店内の奥に入っていく。

11:08
「おう、アトリ。来たぞ」
「む。アルトニオの旦那と、その奥方か。今日は余り暇がないんじゃないのか?」
「ちょっと、聞きたい事があってな」
「あと、奥方ではありません」
 赤い鎧をまとったタルタルに、アルトニオとアリスが話しかける。
 アルトニオとアリスが特に贔屓にしている店員だ。
「あ、あの。はじめ……」
「カレンさん。ここは私たちに任せてくれないかしら」
 話そうとしたカレンをアリスが遮る。
 カレンも、ここは常連のアルトニオとアリスに任せる方が得策だろうと判断する。
「聞きたい事か……悪いが、答えられん」
「まだ、何も聞いてないだろう。だが、その様子だと検討ついているようだな」
「回りくどい事が嫌いなんだ。答えられない。先に、伝えておこう」
「アトリ、そうひねくれないで協力してくれないかしら」
 アルトニオとアリスが交渉を続ける。
「協力?生憎だが、ボランティア精神を持ち合わせていなくてな。何も買わないなら帰っ
てくれないか」
「アトリ、ちょっと考えてみてくれ。俺の対立候補が誘拐された。さて、誰が一番喜ぶと
思う?」
 アルトニオが交渉を続ける。
「なるほど、なら何故、旦那が捜索に協力するんだ?」
 どうも、アトリは勘がいいようだ。アルトニオの問の真意を理解する。
「それは、信用を得るためだ。下層知事になるからには絶対に必要なものだからな」
 アルトニオが続ける。
「対立候補が誘拐されれば、真っ先に疑われるのは俺だ。それだけは、避けなければなら
ない」
「俺も商人だ。クライアントとの信用がどれほど重要なのかは、分かっている」
 アトリは、仕入れ伝票を置く。真面目に聞く気になったようだ。
「それゆえに、教えられない。分かってくれ」
 だが、アトリは折れない。
「アトリが匿っている、そのクライアントか?どれほど上客なのかは知らないが、俺たち
は今、マスコミを味方にしている」
「旦那……脅しているのか?」
 アルトニオの言うマスコミとはサンの事だろう。ハッタリではない。
 アトリは、険しい顔をする。
「脅しているんじゃない。アトリにも俺の立場を味わってもらいたいんだ。自分は悪くな
いのに、信用を失いかねない立場を。
 アトリの場合は、1人の上客のために、多数の客の信用を失うかもしれないって、そんな
ところだな」
「……っち、それを脅すというんだ。
 迂闊な事をしてみろ、旦那も奥方もタダじゃすまないぞ」
「ああ、もとより覚悟の上だ」
 アトリがアルトニオを睨む。アルトニオが睨み返す。
 アルトニオは、協力しなければサンを使って天晶堂の悪評を流す。そういっている事に
なる。
「さて、そろそろ本題に入ろう。天晶堂にマヤ候補がお世話になっているはずだ。どこに
いる?」
 アルトニオの問に、アトリは苦い顔をする。
 アトリは迷う。どうするにせよ、待っているのはデメリットだけだ。ならば、損害は少
ない方がいい。
「……ったく。もう2度と、この手が通用すると思うなよ。
 ……デルクフの塔だ」
「ふ、さっすがアトリだ。男前だなぁ」
 アトリは既にそっぽを向いている。
「さぁ、行き先は決まった。急ごう」
「はい!」
「カチェアはこの事を吟遊詩人の酒場にいる、サンさんとチュウタツさんに伝えて。また、
新しい情報が入っていればデルクフの塔まで来なさい」
「はっ、承知しました」
 4人は、早々に天晶堂を後にする。
 アルトニオ、アリス、カレンはデルクフの塔に向かうべくクフィム島に。
 カチェアは伝令として吟遊詩人の酒場に。

11:40
 アルトニオ、アリス、カレンの3人は、螺旋階段を駆け下りている。
 クフィム島に行くには、ジュノ港のさらに下層にある洞窟を抜けるのが、一番早い。
「しかし、案外簡単に口を割ったな」
「ええ、今度なにか材料を仕入れに行かないといけないわね」
「でも、なんでデルクフの塔なんでしょう?」
 カレンは疑問を口にする。
「うーん。なんとも言えないが、大方、俺達が押し掛けて来るのを察知して場所を変えた
ってところじゃないか」
「そうね、急場しのぎと考えてよさそうね」
 3人は走りながら、ジュノ港を通過する。
「しかし、誘拐なんかしても意味があるのか?どうこうなるとは思えないんだが」
「そう、それが引っ掛かるのよ」
 走りながら話す。螺旋階段が終わり、クフィム島につながる洞窟が見えてきた。
「どんなに脅迫したところで、マヤ候補がNOの一点張りをしたらそれまでの話。誘拐犯
もそれくらい分かっていると思うんだけど」
「ああ、犯人側には誘拐に踏み切れる根拠か切り札を持っているとみて、まず間違いない
だろうな」
 洞窟に入る。急にひんやりした空気になる。
「切り札って……いったい何なんでしょう?」
「それを、今から犯人に聞きにいくんだろう」
 不安そうな顔のカレンに、少しにやけた顔でアルトニオは答える。

11:58
「ほら、走って走って」
「は、はいぃ」
 すっかり息のあがっているカレンを急かすアルトニオ。
 チョコボのマズルカのお陰でクフィム島に通じるトンネルを通り抜けたところだ。
 とはいえ、後衛職であるカレンには少々酷な強軍行である。
「少し歩きましょう。カレンさん、その間に息を整えて」
「はい、すみません」
 アリスがメロンジュースを取り出して、カレンに渡す。アリスとアルトニオは息切れ一
つしていない。
 息が切れていても、一刻の猶予もないのは分かっている。
 歩きながらも、自然と足は速くなった。

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