6:00
 バストゥークのレンタルハウスの一室で、今日、天王山を迎える候補者が朝を迎える。
「ねーさま、ねーさま。起きてください〜朝ですよ〜」
 ベットの上でボンボン跳ねまわりながら、キーキーと頭に響く声で叫ぶ。
「なに〜カレン?あと7時間ねかせてぇ」
 布団にくるまっている物体が腰の抜けた声で言い返す。
「7時間!!?もう6時ですよ。そろそろ準備しないとですよ。」
「6時?」
「きゃーっ」
 がばっと布団がめくれ上がる。くるまった物体は寝ぼけ眼のヒュームに進化した。
 すると洗面所に向かって、顔を洗って歯を磨いて髪を整える。そうすると寝ぼけ眼のヒ
ュームは、ジュノ下層知事選の筆頭候補であるマヤ候補に進化した。
 めくり上がると同時にコロコロと転がって行ったのはタルタル女性のカレン。マヤを「ね
ーさま」と呼んでいるがもちろん姉妹ではない。だが、カレンはマヤを姉の様に慕ってい
る。
「カレン〜今日の予定は?」
「8時からジュノでヴァナディール チャンネル5の生放送だよぉ」
「おし。時間まだあるから朝ごはん食べにいこ〜」
「お〜」
 マヤは話しながらガスピンスに着替える。カレンはすっかりマヤの秘書気どりなのか、
いちいち手帳を取り出しながら答える。
 
6:12
 マヤはもとバストゥーク国民であったが、現在はジュノ下層知事選に立候補しているた
め3国のどこにも属していない。そのため今はバストゥークでもレンタルハウスをつかっ
ている。
 マヤとカレンはバストゥーク港を並んで歩く。
「ん〜今日もいい天気だね〜」
 晴れた空に体を伸ばしながら朝日を眩しそうに目を細めながら言う。
 バストゥークを含めたほとんどの国がなぜか天候が崩れないのは、余り疑問でないよう
だ。
「ねーさま。次の飛空挺は6:40ですよ〜」
「おっけ〜それじゃ蒸気の羊亭にいきましょう。」
 とても今日が選挙日であるとは思えない程の陽気さである。だが、この明るさが人柄で
あり人徳であるという人までいるから不思議である。
「おはよ〜いつものちょうだい〜」
「同じくいつもの〜」
 蒸気の羊亭の扉を全開に押し上げながらマヤとカレンが大声で叫ぶ。
「何がいつものよ。選挙かなんだか知らないけど最近全然顔見せなかったじゃない。」
 カウンターに立つエルヴァーンが悪態つきながら手際よく白パンとウィンダス風サラダ
とパインジュースをマヤの前に、バイソンステーキとタブナジア風タコスとセルビナミル
クをカレンの前に出す。カレンは朝ガッツリ派のようだ。
 マヤとカレンは冒険者になった頃からの仲で、この蒸気の羊亭で知り合ったという。そ
のため、この店も良く来る顔なじみであった。
「ところで今日が選挙の日なんでしょ?こんなところでのんびりしてていいの?」
「うん〜もう選挙活動できる期間は終わってるんだ〜あ。でも次の飛空挺でジュノいくよ。」
「んぐ、んぐ。」
 カレンは食事に夢中で答える気はないようだ。
「8時からニュース出るから見てね〜」
「んぐ、んぐ。」
 やはりカレンは答える気はないようだ。
「あら?でも選挙活動はもうできないんでしょ?テレビとか出て平気なの?」
「うん?そういえばそうね〜カレン、大丈夫なの?」
「んぐ、うん〜大丈夫ですよ〜8時からのはジュノ選挙管理委員も認めてるから。
 インタビューは1人10分までってキッカリ決まってるし、投票始まる前に有権者が今
一度、立候補者を確認できるように行われるんだ。」
 さすがマヤの秘書を気取っているだけあって重要なところはしっかりおさえている。
「だ、そうだよ。とりあえず今日は忙しくなりそうだよ〜っと、そろそろ時間だね。カレ
ン行こうか。」
「おっけ〜あ。セルビナミルクもう1本ちょうだいな。」
 そう言いながら代金をポケットから取り出す。
「はい、まいどあり。私はNPCだから何もできないけど頑張るんだよ。」
「は〜い。まぁ見ておいてよ。」
 2人は手を振りながら出て行った。
 この明るい性格と、ただこのヴァナディールを良くしたいという信念をもっているから
こその筆頭候補者なのかもしれない。

6:32
「お。ありゃマヤさんじゃないか。今日がんばってな〜」
「応援してます!」
 飛空挺でたまたま一緒になった客から声援を受けるマヤ。選挙活動期間は終わっている
のでアピールは控えるが一礼はかかさなかった。
「さすが、ねーさまです。当選確実ですね!」
「カレン、そういうことは余り言わないの。」
 すでに勝った気でウキウキしているカレンと、それをあしらうマヤ。その明るい性格の
裏に、自分の理想を叶えるため闘志をふつふつと燃やしていた。
「最後まで油断はできないは。アルトニオ君も8時のニュースに賭けてくるはずよ。」
「そうだね、ねーさま。8時のニュースだけど、いつものねーさまで行けば大丈夫だよ!」
「うん。がんばるね!」
 席の片隅で気合を入れなおしているところで飛空挺が動き出した。
 離着陸の時は多少の揺れがあるが高度をとると揺れもおさまり、とても快適な乗り物で
ある。
 窓を流れる風景を見ながらマヤはこれまでのことを振り返る。
 マヤはヴァナディールの歴史か見れば出遅れた冒険者である。そのため、ばらつきのあ
る狩場や安定しないアイテムの相場。その上、年に1度くらいでる拡張パックのため常に
その時々の流れに翻弄されながら今まで冒険を続けてきた。
 それでも、マヤは仲間に恵まれることができた。だから今まで冒険者として来れたし、
これからも仲間と共に冒険したいし、新規の冒険者にいらない苦労をかけさせたくなかっ
た。
 だから、少しでも狩場のばらつきやゲームバランスを安定させるため立候補したのだ。
 そんなことを考えながらボーと窓を眺めていると急に声をかけられた。
「失礼、この席あいていますか?」
 そう声をかけてきたのはヒューム男性である。
「え?はい。どうぞ。」
 丁寧に聞かれ、断る理由もないための返事だが、席の空きはいくらでもあった。
 不審に思ったのはマヤだけではない、カレンもそのヒューム男性を見つめる。
 それをとっくに察しているヒューム男性は声を小さくして話かけてきた。
「声を低くしてください。僕はカチュア。ジュノ選挙管理委員から派遣されました。」

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