6:00
「……来たか。相変わらず時間通だな、国王陛下がお待ちだ。」
 クエンティンを見るとそう言った。出迎えたのはサンドリア王国のハルヴァー宰相であ
る。
「陛下は謁見の間だ。」
 ハルヴァーは謁見の間のガードに一瞥をくれる。するとガードは何も言わずその場から
離れていった。これから秘密裏の話がなされるため、聞かれるのをふせぐためだ。
「わかりました。」
 クエンティンは一言と言うと両開きの扉を押し開け中にはいっていった。

6:05
 クエンティンはコツコツと歩く音を謁見の間に大きく響かせながら歩いて行く。彼女は
武器を佩いたまま国王に謁見できるほど身分も信頼も高い。武器は特に両手鎌を好んでつ
かっていた。武器そのもので敵を斬るというより、武器自体の重さを使い叩き切るといっ
た感じだ。
 クエンティンは王座の前までくると、うやうやしく頭をさげた。
「表をあげよ。」
 国王がそういうとクエンティンは顔をあげる。
「お呼びでしょうか、陛下。」
「うむ。ところでそち、此度のジュノで行われている選挙のことは知っておろうな。」
「はい。」
 クエンティンは簡潔に答える。まずは国王が何を考えているのかを聞こうとしているた
めだ。
「ジュノ港知事はウィンダスのタルタル。ジュノ上層知事はバストゥークのガルカに、サ
ンドリアの候補は選挙で負けてしまった。」
「はい。存じております。」
 この時点でクエンティンは今回自分が呼ばれた大体の理由がわかった。いや、彼女は召
集がかかった時点ですでに推測はしていたが、やはり自分の推測は正しかった様だ。
「選挙で立候補すれば国からその籍はなくなり中立国であるジュノに所属すると建前にな
っているが、やはりワシは以前に所属していた国により様々な影響が現れると考えておる。」
「はい。仰せの通りです。」
「今日執り行われるジュノ下層知事選挙は幸いにも我が国出身のアルトニオが候補として
あがっている。」
「……はい。」
「今後、我が国の発言権を確保するため何としてでもアルトニオを当選させなければなら
ない。」
「しかし、お言葉ですが今回の選挙で元所属国の力を借りたら公正選挙違反になり、アル
トニオ候補は落選、悪くすると国王にも罪がかかりますが。」
「そんなことは分かっておる。公にアルトニオを支援したら足が付くかもしれん。」
 クエンティンも分かっている。分り切っている。そしてこの後どの様な命令が下るかも
分かっている。
「対立候補としてバストゥークのヒューマンがいるそうだ。」
「はい。マヤ候補です。」
「おう、そいつだ。」
「はい。では私は……。」
「そいつを立候補から辞退させるのだ。無論、手段は選ぶな。」
「……御意。」
「辞退せず、万が一そいつが当選しそうになったら……殺してもかまわぬ。ぬかるな。」
「……御意。」
 クエンティンは振り返り謁見の間から出るため歩きだした。国王は何も言わず彼女を見
送る。
 最後に国王は「殺してもかまわぬ。」といったが冒険者がモンスターにHPを削り切られ
戦闘不能になるのとは訳が違う。相手の存在自体をヴァナディールの世界から完全に消し
さる。
 それが国王のいう「殺す」である。
 もちろん、それは普通の冒険者は行うことはできない。しかし彼女の持つ両手鎌ヘルロ
ンド。これはサンドリア国王から手渡された追憶の戦器と言われる武器の1つで、この鎌
でとどめを刺されると相手の存在を消し去ることができる。

6:18
「それで。国王はなんと仰せになられた?」
「……いえ。別に。」
 ハルヴァーは毎回の様に、謁見の間から出てきたクエンティンに聞いているが1度だっ
て答えて貰ったことはない。ハルヴァー本人は極秘のためだと思っているが、クエンティ
ンは万が一ハルヴァーに迷惑が掛かるのを避けるために答えないでいる。
「そうか。ならいいんだ。ちなみに何か力になれる事はないか?」
「では、次のジュノ行の飛空挺の時間は分かりますか?」
 宰相の威厳を保つために聞いてはみたが、飛空挺の時間を聞かれたらいったいどちらの
身分が上なのかわかったものではない。ちなみにハルヴァーの方が身分は高い。
「……たしか6:50だ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
 一礼するとクエンティンはドラギューユ城からでていった。ハルヴァーは毎度の事だと
肩をすくめ、国務を始めた。 

6:28
 クエンティンはサンドリア港にいる。飛空挺に乗るためでもあるが、彼女はその前にブ
ルゲール商会の倉庫に立ち寄っていた。
 ブルゲール商会は飛空挺航路を使い他国との貿易で利益をなす貿易会社であるが、本来
取引を禁止されている物で商売を行ったり、冒険者を言いくるめて密輸入の方謀を担がせ
たりするなど問題を起こすこともある。
 とはいえ、取り扱う商品は多い。武器防具はもちろん取引を禁止されている物もあれば、
情報も商品として扱っている。
 クエンティンが買い求めて来たのはその中の情報である。
「おう、らっしゃい、お嬢。今日は何を知りたいんだ?」
 ブルゲール商会の社員もすでに心得てるかのように話しかけてきた。
「今日の選挙はどうなりそうかしら?」
「まぁ、7:3でバストゥークのマヤだな。」
「あら、どうして?」
「新しいジョブとかちょくちょく追加されるだろう?上級者でもレベリングしやすい方が
いいと考えるのが多いんだ。それに昔と比べて合成職人も多いからな、今さら合成に価値
をって言っても厳しいだろうな。」
「ふむ、なるほどね。逆転の可能性はないの?」
「知ってるだろう?昨日でもう選挙活動期間は終わってるんだ。あとは神のみぞ知るって
ヤツだ。」
「わかったわ。あと、マヤ候補の今日の予定は分からないかしら?」
「……ちょっとまってな。」
 そういうと社員は倉庫の奥のパソコンをいじりだした。そしてすぐに戻ってきた。
「8:00からジュノでヴァナディール チャンネル5の取材を受けるみたいだ。その後はわ
からないな。」
「おっけー。それだけわかれば十分よ。最後に、このメモに書かれているものを天晶堂の
サッタルマンサルに用意するように伝えて。1時間後に取りに行くって。」
 クエンティンはメモ用紙と丸く包められたヴァナディール紙幣を手渡した。
「ひゅー。伝言預かったよ。まいどあり。」
 社員が口笛を吹くほどの報酬を渡すのは口止めの意味が強い。もちろん社員も心得てい
るだろう。
「ほらお嬢。こいつはサービスだ。」
 外に出ようとするクエンティンを呼び止めて何かを投げる。
「ペン型の録音機だ。それで大体30分録音できる。」
「ありがとう。飛空挺の時間あるからこれで。」
 そういうとクエンティンは出て行った。すると同時にさっきの社員はクエンティンを忘
れてしまったかの様に仕事に戻った。これはお互いのためである。

6:45
 飛空挺乗り場に着いた時にはすでに飛空挺は到着していて、燃料補給や整備を受けてい
る最中だった。
 クエンティンは乗り遅れまいと飛空挺に飛び乗った。
「しかし、アルトニオ氏は劣勢か。」
 クエンティンは客室のあまり人がいないところを選び小さくつぶやいた。
「……しかたないな。」
 そういうとクエンティンは何か覚悟を決めた様だった。

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