10:00
『おはようございます。
 ただ今より、ジュノ下層知事選挙の投票を開始いたします。
 投票は、ル・ルデの庭・北サンドリア・バストゥーク商業区・ウィンダス石の区に派遣
されている専用NPCから投票を行うことができます。
 投票締め切りは18:00までです。
 繰り返します、投票締め切りは18:00までです。
 多くの方の投票をお待ちしています。』

10:03
「わっ、声が聞こえてきた。」
 ヴァナ・ディール全土に轟く選挙放送を聞いたウエバーは驚く。
「ああ。今日やってるイベントだな。俺はあんまり興味ないから良くわからないな。」
 マットアラストは頭を掻きながら答える。
「まあ、それはいいとしてだ。
 ウィンダスに行くんだろう?丁度、飛空挺が出て行ってしまったところだな。次のウィ
ンダス行きが11:20だから時間はある。折角ジュノに来てるんだ、何か行きたい所とかな
いのか?」
「そうですね……」
 ウエバーは、ふんふんと鼻を鳴らしながら考える。
 さすが、ヴァナ・ディールの中心に位置するジュノだけあって、競売を覗けば様々なア
イテムが流通しているし、ショップの品揃いも馬鹿にならない。
「あ。それじゃあ、ル・ルデの庭を見てみたいです。」
 ウエバーは思いつく。
「なるほど。ジュノの中心だからな。上にあがるだけだから近いし、早速いってみるか。」
 マットアラストは、またもや豪快に笑いながら歩き始めた。
 マットアラストの歩幅が広いため、ウエバーは軽く小走りしなければ追いつかなかった。

10:17
 ル・ルデの庭は近年稀に見る混雑ぶりだ。
 普段は次期がずれたミッションを遂行するために訪れるか、限界を突破できるジイサン
を訪ねる程度しか人は行きかわないが、今回の選挙で投票できるNPCがこのル・ルデの
庭にいるために人がごった返している。
 中には、有志が出口調査をして者もいる。
「非常に混雑しています。投票が終わりましたら速やかに他エリアに移動をお願いします。
 その際、テレポやデジョンではなく徒歩での移動をお願いします。」
 この混雑をなんとか解消しようと、ジュノ選挙管理委員のメンバーがシャウトしている
が、やはりお祭り気分の冒険者が多く、なかなか混雑は解消されないのが現実だった。
「かー、これは予想以上だな。せっかく観光ができると思ったのになあ。」
「す、すごい人ですね。」
 ル・ルデの庭に来たのはいいが、あまりの人の多さに立ち止まった2人。だが後ろから
押されるだめ、ベンチがある通路まで歩いてきた。
「しかし、すごいなこれは。デュミナスでもこんなに人は集まらないぞ。」
「そうなんですか?」
 人ごみに全く慣れていないウエバーはすっかり疲れてしまった。
「これでは、観光どころではないですね。他、行きましょうか。」
「ああ、それでもいいかもな。ちょっと待ってな。」
 マットアラストは跪き、額に指をあて何か考え事をしている。
 そう思うと、大きな手のひらを開け、手のひらの間を水がシュワシュワと泡だ出せてい
る。
 すると、その水は少し光ったかと思うと、水が消え、アイテムが出現した。
「ほれ、これでも飲んで一息つこう。」
「わあ、ありがとうございます。今の合成ですよね?初めてみました。」
 ウエバーは渡されたメロンジュースの栓を開け、飲み始める。
 ジュノ選挙管理委員とお祭り気分の冒険者が叫んでいる。この混雑は早々には収まらな
いだろう。

10:38
「ところでお前さん。赤魔導師だろう?レベルはそこそこ高いようだが装備は何をしてい
る?」
「えーっと、武器はこのフーレを。防具は見たとおりです。」
 ウエバーは聞かれたので、愛用のフーレとレザー系の装備をみせる。
「なるほど、フーレはなかなかの一品物だな。武器はいいとしても防具はいただけないな
あ、アクセサリーも何もしてないし。
 よし、装備を適当に見繕ってくるからここで休んでいな。」
「え?でも……あの……」
「うん?どうした?」
「僕……ギルはあまり持っていなくて。」
「はっはは、そんなことは気にしないでいいぞ。後でまとめてクリルラに請求しておくか
らな。」
「そ、そうですか。」
 マットアラストは、笑いながらどこかへ行ってしまった。たぶん、競売所だろう。クリ
ルラさんには深く感謝。
 ウエバーはメロンジュースをまた一口飲む。
「んっふふ〜ふ〜ふん〜んっふふ〜ふ〜ふん〜んっふふ〜ふ〜ふ〜ふっふふっふ〜ん。」
 ナパーム弾で森林を航空爆撃するシーンが頭に浮かぶ鼻歌を歌いながら、誰か歩いてい
る。
 ウエバーは何気なく、そっちの方を向く。どうやら、歌っているのはタルタルのようだ。
 ウエバーはつい、タルタルをよく見てしまう。
「ふふっふふっふ〜ん。うん?」
 タルタルはウエバーの目線に気がついた。ウエバーは慌てて目線をそらす。
 今度は、タルタルがウエバーの方に目線を向けている。
「ふふっふふっふふふ〜ん。」
 鼻歌を歌いながら、タルタルはてくてくと近づいてくる。
「やあ、はじめまして。」
 タルタルが話しかけてくる。
「は、はじめまして。」
 ウエバーも、とりあえず言い返しておく。
 タルタルは、ひょいとウエバーの隣に座る。
「君、なんか〜こう〜……なんていうんだろう?変わった感じというか、印象があるね。
なんでだろうね?」
「そ、そうですか?気のせいだと思いますよ。」
「気のせい?うーん、そうかなあ。」
 タルタルは、足をぷらぷらと振りながら話す。
 ウエバーは、緊張する。まさか自分の秘密を一目で見破られたのではないかとドキドキ
する。
「う〜ん、う〜ん。気のせいかぁ?ほんとに気のせい?」
「ええ、そうですよ。何かおかしいところありますか?」
「いや。気のせいみたいだ。気を悪くしたらごめんよ。」
 やたらタルタルが絡んでくるが、真意はわからない。ウエバーの体系が少し変わってい
るから不審に思ったのかもしれない。
「うん。気のせいだね。ごめんよ。」
「いえ、いいんです。お気になさらずに。」
「あはは、お気になさらずだって。江戸時代人みたいだ。」
 タルタルがケラケラと笑っている。
 どうやら不信感は解けたようだ。
「ごめんね、つまらないこと聞いて。では僕はこの辺で。」
「はい、ではまた。」
 タルタルはひょいとベンチがら降り、どこか歩いて行ってしまった。
「……なんだったんだろう。」
 ウエバーは去っていったタルタルの方を見る。
 そこには、ジュノ公国の真っ白な宮殿があった。

10:46
「おう、待たせたな。」
「ああ、いえ。とんでもないです。」
 マットアラストが袋に装備を入れて帰ってきた。
「ところでお前さん、誰かと話してなかったか?」
「ええ、通りすがりの方と。あまり話さなかったですけどね。」
「そうか。何もなかったならいいんだ。」
 きっと、さっきのタルタルのことを言っているのだろう。遠巻きにみえたのだろう。
「とりあえず、防具を見繕ってきた。さっさと着替えろ。そろそろ飛空艇乗り場に向かお
う。」
「うわあ、すごい。どれも高価そうですけど。」
 装備名までは分からないが、MPや魔法スキルをブーストできる装備のようだ。
「ノンクォリティだからどれも安物だ。だが、それでも十分に使えるだろう。」
「そうなんですか?……では早速着替えますね。」
 ウエバーはそそくさと着替え始める。
「すごいカッコイイ。どうですか?」
「ああ、似合ってるぞ。」
 マットアラストは大きな口を開けて笑っている。きっとココナッツも入るだろう。
「よし。そろそろいくか。ル・ルデの庭観光はこれからいつでもできるからな。」
「そうですね、行きましょう。」
 2人は立ち上がって歩き出した。
 ル・ルデの庭は、いまだに混雑している。

10:53
「モグハウスが中心になって、こう、螺旋状に階段があって、各階層とつながっているわ
けだ。」
「なるほど。」
 マットアラストが、ジュノの構造を簡単に説明している。
 ウエバーとマットアラストは、ジュノ下層まで戻ってきた。
 ガイドストーンの前を通り過ぎる。
「……ん?あれ、どうした?お前さんのファウストが。」
「え?ファウスト?」
 ウエバーは自身の腰を見る。
 先ほどウエバーが着替えている間にマットアラストがこしらえた、雄羊の毛皮を用いた
不恰好な鞘に収められたファウストが佩かれている。
 その鞘の口から、青白い光が溢れている。
「あれ?どうしたんだろ。」
 ウエバーはファウストを抜く。
 ファウストは青白い光を放っている。

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