8:00
 風が強い甲板にウエバーとマットアラストが座っている。
 ウエバーはマットアラストにこれまでの事情を話して、マットアラストに理解してもら
った。理解が早いのにはきっと、クリルラから何かしらの話を聞いていたのであろう。
 ウエバーもマットアラストから何故、自分を助けてくれるのか説明してくれた。マット
アラストはサンドリア王国ランク10の冒険者で、王国からもクリルラからも信頼を受けて

いるのだった。その王国の神殿騎士団隊長からの申し出を断る理由がないとのことだ。
「ところで、お前さん。ジュノに着いちまえばもう早々王国の連中はお前さんを見つけら
れないだろう。晴れてシャバに出れたんだ。何かしたい事はないのか?」
「はい。僕の……両親を探したいと思っているんです。」
「そうか。生き別れだってな。そりゃ会いたいだろうな。」
「ですからマットさんに手伝って頂きたいのですけど。」
「ああ。手伝うとも。あと俺のことはマットでいいからな。呼び捨てでOKだ。
 しかし……探すといっても両親の名前だけではなぁ〜何か手掛かりはないのか?」
「うーん。そうですね……あ。そういえば。」
 そういうと、ウエバーは追憶の戦器ファウストを取り出しマットアラストに見せる。
 そして、追憶の戦器とその特殊能力。それと随一の剣の達人である自分の母親が恐れた、
謎のミスラが同じ追憶の戦器シリーズの武器を持っていると思われる事を話す。
「なるほど。確かにそのミスラはキナ臭いな。……それに追憶の戦器か〜初めて聞く名前
だな。」
 そういいながら、マットアラストはファウストを良く観察する。ファウストの刀身には
リンゴに蛇が渦巻くように絡みついている模様が綺麗に掘られている。
「よし。ジュノに着いたらジュノ上層にいるルト・ミュリラーってミスラに会いに行こう。
このミスラはアンティークとかに詳しくてな。この追憶の戦器の事も何か知っているかも
しれない。」
「はい!よろしくお願いします。」
 ウエバーはマットアラストに深く頭を下げる。礼儀作法等はきっとクリルラから厳しく
教えられているのであろう。
「おいおい。そんな深々と頭を下げないでくれ。礼はお前さんのご両親を見つけた時でい
いっての。
 しかし。お前さん変わった体格をしているな。今何歳なんだ?ちょっと立ってみろ。」
「は、はい。僕は今年で16です。こうですか?」
 ウエバーはおずおずと立ち上がる。
 ウエバーの顔立ちはエルヴァーンらしい目に切れのある整った顔立ちであるが、鼻先が
黒いのはきっとタルタルの遺伝であろう。
 そしてエルヴァーンとの差が大きいのは身長で、16歳なら本来なら成長期もすぎ身長
は伸び切るはずなのだが、ウエバーはせいぜい成人エルヴァーンの胸ほどしかない。タル
タルの血を引いてるため、背が伸び悩んだのだろう。
 しかし、それでいてクリルラに鍛えられていただけあって、体はガッシリしている。
「ふむ……まぁ、歳を聞かれる事があったら13歳と答えれば通じるだろう。いいじゃな
いか、若く見られて。」
 マットアラストはケラケラと笑いながら言った。
 そうしていると飛空挺が急に小刻みに揺れだした。
「お。ジュノに着いたみたいだ。念のため、ここから飛び降りて船を降りるからな。」
「えぇ〜またですか?」

8:30
「痛い。足がジーンと痛いです。」
「おいおい、あまり情けない事を言うなよ。お前さん、俺よりずっと体軽いんだから。」
 足を摩りながらウエバーはジュノ港を歩いた。
「しかし……さすがジュノですね。凄い人だ。」
「今は何かイベントをやっているみたいでな。それで、特別人が多いんだよ。」
 周りをキョロキョロしながら歩くウエバー。
 初めて降り立ったジュノは見たことのない物ばかりだった。上を見ながら歩いていると、
気づかずにタルタルを蹴り飛ばしそうになってしまう。そのため、初めて見るタルタルを
観察する。急に風が吹いたと思って上を見上げると、今まで乗っていた飛空挺が頭上を飛
んで行った。
「ここの階段を上ったらあっというまにジュノ上層だ……おい、迷子になってくれるなよ。」
「あ、はい!」
 少し観光気分だったウエバーは小走りでマットアラストに追いつく。
 二人は並んで階段を上っていく。
「さてと、例のミスラだけど。いつもは教会前あたりをほっつき歩いてるんだがな。」
 マットアラストは飄々と歩くが、ウエバーは人ごみを掻き分けて歩くのに慣れていない
のでジグザグになりながら歩く。
「しかし、すごい人ですね。それはいいんですけど、皆さん刀身剥き出しのままなんです
ね。危なくないんですか?」
「んん?危ないってお前さん、変わったこと言うなぁ。まぁ慣れたらなんてことないさ、
基本は例え巨大な両手剣でも鞘に入れんぞ。」
「え!?そうなんですか?」
 ウエバーは心底驚いている。しかし、マットアラストには理解されていない様だった。
 マットアラストは何の心配もなさそうに言っているが、ウエバーは行き交う人を、特に
刀身が剥き出しになっている剣を避けながら歩いて行く。
 この時ウエバーにも、ましてや前を歩くマットアラストにも気が付かない程度の小さな
切れ傷が、ウエバーの着ている上着の裾に付いた。

8:52
「あーいたいた。おーい、ルト!」
「?」
 不意に呼びかけられたミスラが振り返る。
「あら、マットじゃない。久しぶりね。」
「おう、ひさしぶりだな。元気そうでなによりだ。」
「あ、あの。おはようございます。」
 腕を軽く組んだミスラが歩み寄ってくる。
 初めてミスラを間近で見たウエバーは、失礼であると思いながらも観察してしまう。
 上にピンと立った耳と、ゆらゆらと揺れる尻尾がやはり特徴的だ。しかし、ウエバーは
エルヴァーンの様な畏怖を思わせる様な目の鋭さとは違う、ミスラ特有の野生染みた目の
鋭さが印象的だった。
「実はな、ルトにちょいと聞きたい事があるんだ。」
「ふーん。マットがわざわざね、面倒な事はご免なんだけど。」
 ルトは少し目を伏せる。
 ルトは話をマットアラストに任せたまま黙っているウエバーを何気なく見る。
 ウエバーの体を少し見回すと、ルトの眉毛がピクりと僅かに動く。誰も分からない、き
っと本人も意識したわけではないだろう。そして、今度は打って変わって熱い眼差しで、
ウエバーの事を舐めまわすように見つめる。
 ウエバーは余り見られるのに慣れていないため少しうろたえる。
「あ、あの。何か?」
 穴が開くのではないかと思うほど見つめられるウエバー。
 それを知ってか知らずか、ルトは微笑む。
「ふふ、いいわ。それで私に聞きたいことってなに?」

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