9:00
「あら?いま何か音しなかった?」
「えぇ。何か爆発音みたいな。」
「うん?俺は何も聞こえなかったがな。」
 ウエバーとルトは何か異変を感じている様だが、マットアラストは特に気にならない様
だった。
 ウエバーとマットアラストとルトは、ジュノ上層の教会前で立ち話をしている。
「それで。私に聞きたいことって何?」
 ルトが話を切り出す。
 ウエバーはやはり自分の事なので、マットに任せっきりにならない様に話しだした。
「あの、ルトさん。追憶の戦器ってご存知ですか?」
「追憶の戦器?」
 ルトが反応する。
 ルトの顔から微笑みが消えて真面目な顔になり、瞳は更に好奇心を帯びた。
「ルト。その反応からして何か知っているな?」
 マットアラストが捲くし立てる。
「えぇ、少しね。でも、追憶の戦器を知っている冒険者はかなり少ないわよ。」
「実は僕、その追憶の戦器を持っているんです。」
「えぇ!?追憶の戦器を持ってるの?」
 ウエバーは追憶の戦器ファウストをルトに見せる。
 そして、謎のミスラが追憶の戦器を持っている可能性があるのと、この手がかりが生き
別れになった両親に繋がるかもしれないことを説明する。
 だが、サンドリアに幽閉されていたのと、自分がタルタルとエルヴァーンのハーフであ
るのは念のため伏せておいた。
「なるほどね。それで、追憶の戦器の何が知りたいの?」
「なんでもかまわん。知っている事を教えてくれ。」
「よろしくお願いします。」
 マットアラストが答えると、ウエバーも続いて頼んだ。
 ルトは頬を指で撫でながら考えると話しだした。

9:12
「追憶の戦器は全てジラード時代に作られた物で、今あるものは何かしらの理由で発掘さ
れた物よ。そして、この武器に特殊能力を付与させる技術は現代に受け継がれていないわ。
 あと戦器と言うけど追憶の戦器の形状に武器が多いからそう言われているだけ。前に導
きの鏡っていう鏡を持っている冒険者がいたんだけどね、後々調べてみるとミラー・オヴ・
セラフィーっていう追憶の戦器のひとつだったわ。」
 ルトが説明し始める。
 説明はルトが自分の記憶を探りながら話す感じだった。
「あと追憶の戦器には、付与されている特殊能力の内容によって3つの階級に分けられて
いるわ。
 ひとつはオパール級。特殊能力が付与されてはいるけど大して役に立たない物ね。
 ひとつはエメラルド級。華やかな能力ではないけど、使い手によっては真価を発揮する
物ね。あなたのファウストはたぶんエメラルド級だと思うわ。
 あと、もうひとつはダイヤモンド級。たとえ使い手がオポオポであっても絶大な力を発
揮する物よ。このヴァナ・ディールに何個も無いでしょうね。
 能力にブレが生じるところからみると、ジラード時代の技術をもってしても作り手の望
んだ能力を持つ追憶の戦器は作れないと推測できるわね。」
「ほう。さすがに詳しいな。」
「それで、謎のミスラが持っていた両手鎌の追憶の戦器の事については知りませんか?」
 焦るウエバーに、気持ち良く話すルトは少しムッとする。
 尻尾をふるふると揺らしながら考えるルト。今までの説明とは打って変わって、顔色が
曇っている。余り確証を持っている様ではないようだ。
「うーん。そのミスラ……なんだけど。これは、まぁ都市伝説みたいなものなんだけどね。
 サンドリア王国には国王の直属の部下で、主に暗殺を任務とするスイーパーがいるって
噂があるのよ。この噂は前の戦争の時からあるわ。
 確かにサンドリアに敵対するバストゥークやウィンダスの要人が、死体も見つからない
失踪が多数あったのは事実よ。そこで、さらに噂は一人歩きしてね、殺した上に死体を消
し去る追憶の戦器を、そのスイーパーは持っていると言われているわ。
 そして、偶然にも。その追憶の戦器は両手鎌ってわけ。
 まぁ。こんな噂は戦時中なら腐る程あるんだけどね。」
「おいおい。これはまた、話が飛躍したな。」
「……いや。火の無い所に煙は立たないって言いますし。」
「うーむ、確かにな。お前さんも都市伝説みたいなものだしな。」
 マットアラストはケラケラ笑う。
 ルトは笑うマットアラストを少し不思議そうに見ている。しかし、ルトは何かを思い出
したかのように手を叩く。
「ところでウエバーくん。追憶の戦器を全く知らないみたいだけど、これは知っていたか
しら?」
 そういいながらルトは懐からククリ状の短剣を取り出す。
 ルトは短剣を構えると、スナップを利かせてウエバーにひと振りする。
「!?痛いっ!」
 ウエバーは左手の甲を抑える。
 ウエバーは痛みの根源である左手の甲をみると、細い線が走っており、うっすら血が滲
んでいる。

9:27
「あん、痛いだって?
 ……おい。これはどういうことだ?血が出てるじゃないか!ルト!今お前がやったのか。」
 マットアラストは背中から銃を取り出す。
 ウエバーは何があったのか理解できないが、痛いといっても小さな切り傷なので大した
怪我ではない。それなのにマットアラストの必要以上の反応に驚いた。
「待ってマット!ちょっと話を聞いてよ。」
 ルトは両手を振ってマットアラストに言う。
 マットアラストは銃口をルトに向けていたが、落ち着きを取り戻し、銃をしまった。
「あぁ……悪かったな。
 それで、これはどういうことなんだ?ルト。」
「マット、僕は少し手が切れただけですよ。それなのに、どうしてそんなに怒っているん
ですか?」
「うん?どうしてってウエバーくん。」
 ルトはウエバーの反応に不思議がっている。
 ウエバーはつい数時間前までドラギューユ城に幽閉されていた。そのため、フィールド
のシステムをしらなかった。そして、ルトもこの事を知らない。
「あん?あぁ!ルト。それより、どういうことなのか教えてくれ。」
 マットアラストは話を逸らす。
 ルトは今ひとつ納得していない様子だが、話はじめる。
「私はNPCだけど、モンスターではないわ。
 だから本来、私がどう頑張ったって貴方たちに攻撃を加えることはできないの。なのに、
いまウエバーくんに一太刀お見舞して傷を負わせることができた。
 ……実はこれ、追憶の戦器を持つと生じるペナルティーなのよ。」
 マットアラストは今までとは打って変わって戦慄の表情を見せる。しかし、ウエバーに
は未だピンと来ない様子だった。
 ルトはここが山場といわんかぎりの鋭い視線で話す。
「追憶の戦器を持つことのペナルティー。
 ……それは、私たち中立のNPCはおろか、普通のプレイヤーからの攻撃も受けることに
なることよ。
 しかも、それだけじゃないわ。追憶の戦器を持っているときに万が一、戦闘不能になっ
たらホームポイントには戻れない。その場でThe Endって訳。」
「なんてこった……」
「なるほど。そういうことだったんですね。」
 マットアラストは血の気の引いた顔をして、ウエバーも話をかいつまんで理解した。
 
9:42
「それはそうと。さっきから周りが騒がしいわね。」
「あ、あぁ。何かあったのかもしれんな。」
 マットアラストには、まだ動揺が残っている様子だ。
 3人が話し始めてかれこれ40分近くたっているが、人の行き交いが多くなったのは容易
にわかる。
「もしかしたら……さっきの爆発みたいな音が原因じゃ。」
 ウエバーが腕を組みながら考える。
 耳が大きい分、エルヴァーンとミスラは聴力にすぐれているのかもしてない。
「あ。ロウリエッティ神父!」
 ルトは前を横切ろうとする男を呼び止める。
 服装からして、3人のいるすぐ近くの女神聖堂に仕える神父であろう。
「ルト様。どうなさいましたか?」
「さっきから辺りが慌ただしいけど、何かあったんですか?」
「えぇ。実は先ほど、ジュノ下層で爆弾テロがあった様なのです。」
「爆弾テロ!?」
 事情を知らない3人が一様に驚く。
 フードで顔の半分が隠れているとはいえ、神父の息切れと顔を流れる汗がさらに真実味
を帯びさせる。
「はい。まだ詳しい事は分かっていませんが、選挙を妨害しようとしているのは確かでし
ょう。サンドリア国教会もこれから人手を集めて、場の収拾にあたる所です。」
「そうでしたか。お引き留めして申し訳ありませんでした。」
「いえいえ。それでは私は失礼します。」
 神父は一礼すると、足早に去って行った。
 
9:52
「しかし。爆弾テロとは穏やかじゃないな。」
 マットアラストは顎髭を撫でながら話す。
「爆弾ということは天晶堂が絡んでいる可能性が高いわ。
 首を突っ込まない方が身のためよ。」
 なんだかんだ情報通のルトは忠告する。
 マットアラストもその意見には賛成の様子だ。
「でも……なんか気になりますね。」
 ウエバーは、どうもしっくり来ない様子だった。
「それで、おふたりさん。この後どうするの?」
 ウエバーにすっかり興味を持ったルトが聞いた。
「はい。この後ウィンダスに行ってみようと思います。」
「そう。それがいいかもね。」
 勘のいいルトは薄々感づいているが深くは追求しなかった。
「そうだ。ルトさんも一緒にいきませんか?
 追憶の戦器のことも色々ききたいですし、興味もあるみたいですから。」
 ウエバーの申し出に、ルトは目を丸くきょとんとして、マットアラストはギクリとした
表情を見せる。
「あははは。お誘いありがとうね。
 でも、私達NPCは基本的に今の場所を離れることはできないんだ。
 だけど、こんなこと言われるの、かなり久し振りよぉ。」
「あ、あぁ。そういうことだ。残念だったな。」
 ルトはニコニコしているが、マットアラストは苦笑いをしている。
 ウエバーとマットアラストは、ルトに礼を述べると歩きだした。
 ウエバーは今までよりも、鞘に入られていない剥き出しの刀剣に、気を付けて歩かなけ
ればならなくなってしまった。

ヴァナ・ディール24メインコンテンツ
TOP inserted by FC2 system