8:00
「はぁ〜い!ヴァナ ディール チャンネル5!ニュースキャスターのサンでーす!
 今、サンはジュノ下層にある吟遊詩人の酒場にお邪魔して、本日行われる天王山!ジュ
ノ下層知事選挙の立候補者の方々に来ていただいています!
 これから立候補者の方々に最後のアピールをしてもらうから聞き漏らさないでね!これ
を逃すと誰に投票していいか分からなくなっちゃうぞ!
 CMの後、いよいよ演説だからチャンネルはそのまま、そのまま!」
「OK!CMはいりまーす。」
 サンが一息に大声で喋ると、CMに入ったためか一息ついている。
 マヤはいよいよ緊張してきた様子で、イスに座りなおして背筋を伸ばす。
 アルトニオは一番左のテレビカメラはサン専用と踏んだので残り2つのテレビカメラに
意識を集中させようと考えていた。
 他にも後ろに候補が3人か4人いるが、名前は全く知られていない俗にいう泡沫候補だ。
本当はというと、立候補者は30人以上いるのだが、殆どはマヤとアルトニオに勝てないと
諦めて演説に来ていないのだろう。実際マヤとアルトニオ以外の候補は2人の後ろに座ら
されている。
「CM明けます。5秒前、4、3、2……」

8:06
「それでは!本日のジュノ下層知事選挙に立候補している方々にお話を聞いていきます。
 まずはマヤ候補。貴女がジュノ下層知事に就任した暁にはどの様な政策をなさるのか、
アピールお願いします。」
 そういうとテレビカメラの前に膝を付いているタルタルが「演説時間ここから10分間」
と、書いてあるカンペを見せる。
 すると左にあるテレビカメラ以外の残り2台のカメラがマヤの方に向いた。
「あ、はい。私がジュノ下層知事に就任した暁には、クフォンとミンダルシア大陸でのフ
ィールド、分り易く言いますとリージョンポイントが加算されるエリアでの、戦闘で得ら
れる経験値を増やします。どの程度増やすかといいますと、約20%増やす予定です。
 これにより、高レベルで良く使用されるアトルガン地域の狩場での混雑解消と、初心者
の方や新しいジョブを上げる方がレベリングしやすくなり、高レベルの方も純粋にレベリ
ングをしたいのであれば皇国戦績は入りませんが、クフォン・ミンダルシア大陸で効率よ
くレベリングできるようになります。
 この様に、初心者の方や新しいジョブを上げようと考えている方には、より良い環境で
レベリングできるようになり、高レベルの方には、レベリングと金策を兼ねるのであれば
アトルガン皇国付近での狩場を、効率の良いレベリングをしたいのであればクフォン・ミ
ンダルシア大陸での狩場をと、選択の幅を広げることがでます。」
 こう言いきったマヤは胸をなで下ろす。
「ふむふむ。なるほど!マヤ候補は経験値の獲得率を上げることによって、レベリングを
する環境を整えるわけですね。
 それでは1つ質問いいでしょうか?
 マヤ候補は経験値を約20%増やすといいますけど……私にはいまいちピンと来ないです。
実際どのくらい違うものなのか教えていただけますか?」
「え?あ、はい。
 えーっと、1時間で言いますと、狩場やパーティーの編成や効率にも左右されますが、約
300から600ポイント程、アトルガン皇国付近でレベルングするより多く獲得できると考
えています。」
 マヤが質問に答えた所でタルタルが「残り1分」のカンペを見せる。
「では最後にマヤ候補。他の候補者に一言ありませんか?」
 マヤは質問されると緊張がほぐれて来たのか微笑みながら答える。
「はい。ここに来られている他の候補の皆さんは、私と同じくヴァナ・ディールの世界を
今より良くしたいと考えている方々です。
 ですから、私も負けないくらい努力していきたいと思っています。」
 マヤは膝の上で握り拳を作って力強く答える。
 ここでタルタルは「演説終了」のカンペを見せる。
「はい、マヤ候補。ありがとうございました。
 この後も他の候補者の方々にドンドン話を聞いていきますのでチャンネルはそのまま
、そのまま。」
「はい、CMはーいります!」
 マヤは大きく息をついた。
 これで私の想いは通じたのか。何度も演説をしてきたが、それと同じ数だけ考えること
だった。
 カレンの方を見ると親指を立ててポーズを取っていた。
 演説はこれだけではない、今まで積み上げてきたものがある。マヤはそう自分に言い聞
かせた。

8:29
「CM明けます。5秒前、4、3、2……」
「はーい。では次にアルトニオ候補。貴方がジュノ下層知事に就任した暁には、どのよう
な政策をなさるのか、説明お願いします。」
「はい。
 まずは皆さん、合成はご存じかと思いますけど、実際の合成事情はご存じでしょうか?
 今は競売を見ての通り、デフレが進んで金策が難しい状況となっています。
 合成事情も変わらず、合成をしてもなかなか利益を上げることができずに、ハイクォリ
ティー装備でも作らなければ黒字にならないのが現状です。
 これは本来、あってはならない事だと私は思っています。
 より良い装備を作るには、より高い合成スキルが必要になり、そのために資金を費やし
て合成スキルをあげます。
 その資金も決して安くはありません。このデフレのご時世であるからこそ、合成の価値
を見直さなければならないのです。
 そのために、まず獣人が戦闘後落とすギルを増やします。これにより市場に流れるギル
の量が増えてデフレを緩和することができます。
 その次に、モンスターが合成素材を落とす確率を下げます。これにより合成で作られる
装備品の流通量を制限されるため、合成品の価値が上がることになります。
 結果的に、合成職人は合成に本来あるべき価値を取り戻し、消費者は合成品の価値を再
認識することにより装備の幅が増えることでしょう。」
 アルトニオは両手で簡単なジェスチャーを交えながら説明した。
 ここでタルタルは「残り4分」のカンペを見せる。
「ふむふむ。なるほど。市場に流れる貨幣と商品をコントロールすることにより、市場を
安定させるわけですね。
 それでは、アルトニオ候補に質問です。
 アルトニオ候補は革細工師としても有名ですけど、やはり革細工師のアルトニオ候補と
して不安があって立候補したのでしょうか?」
「はい、もちろんそれもあります。しかし、合成に本来の価値を取り戻したいのは全ての
合成職人の総意だと考えています。
 合成の価値を高めることにより、より職人の方々の意欲をたかめる。そして、合成を始
める方の開拓をできればと考えています。」
 ここでタルタルが「残り1分」のカンペを見せる。
「では最後にアルトニオ候補。他の候補者に一言あればお願いします。」
「そうですね。今はライバル同士ですからね。いい戦いをしたいと思います。」
「はい。ありがとうございました。
 この後も立候補者の方に話を聞いていきますのでチャンネルはそのまま、そのまま。」
「はい、CMはーいります!」
 タルタルが毎回の様に叫んだ。
 一仕事終わったアルトニオは一息つく。
「まぁ。こんなもんだろう。」

8:40
 CM中、ジュノ選挙管理委員のチュウタツが近付いてきた。
「マヤ候補、アルトニオ候補。お疲れ様でした。
 この後は他の候補者のインタビューのため前列を開けていただきます。ですので、お二
人の撮影はこれまでです。お二人はお忙しいでしょう。お帰りいただいてかまいません。」
 チュウタツは撮影後の説明を手早くする。
「わかりました。それでは私はここで失礼させていただきます。」
 マヤはチュウタツと、そして周りのフタッフに一礼して席を立つ。
「OK。俺もこの辺で失礼しよう。」
 アルトニオは片手を上げて挨拶して席を立つ。
 演説内容が違ければ、挨拶ひとつでも正反対な2人であった。

8:45 アルトニオパート

ヴァナ・ディール24メインコンテンツ
TOP inserted by FC2 system