10:00
『おはようございます。
 ただ今より、ジュノ下層知事選挙の投票を開始いたします。
 投票は、ル・ルデの庭・北サンドリア・バストゥーク商業区・ウィンダス石の区に派遣
されている専用NPCから投票を行うことができます。
 投票締め切りは18:00までです。
 繰り返します、投票締め切りは18:00までです。
 多くの方の投票をお待ちしています。』

10:03
 選挙開始の放送はもちろんマヤとクエンティンにも聞こえているが、それどころではな
い。
 テレビにはジュノ下層知事選の筆頭候補の一角であるマヤ候補が誘拐された事件が繰り
返し繰り返し流れている。
 その内容は、カレンの顔が画面いっぱいに映し出され「マヤ候補が誘拐されました!」
と、大声で話している。この映像からしてカメラの端を掴んでレンズの前に顔を出してい
ると思われる。
「やってくれたわね、貴女のお友達。貴女の期待通りに動いてくれたんじゃない?」
「ふふふ、その様ね。私を甘く見ないでもらいたいわ。」
 クエンティンが言っているのは2時間半ほど前にマヤがカレンに送ったメッセージの事
を言っている。
『7:29 メッセージ送信 forカレン
 本文:もし何かあったら、この事を一人でも多くの人に伝えて。』
 この事である。
 送ったマヤ本人は、このメッセージに自分が万が一、事件に巻き込まれたらその事をジ
ュノ選挙管理委員や自分の親しい友人に伝えて欲しいくらいの意味しか込めていなかった。
 しかし、送られたカレンは、そのメッセージを読んだままに理解した。カレンは、この
ヴァナ・ディールの世界にいる冒険者に1人でも多く伝えようとしたのだ。
 そうなったらメディアを利用しない手はない。結果として今、テレビでマヤ候補誘拐を
報道されることになる。
 しかし、結果オーライである。この報道によりマヤが殺せない理由が出来た様だ。それ
が何故かはマヤにはまだ理解できないが、マヤはそれを逆手に取る。
「さあ、私を解放しなさい。今ならまだイタズラで済むわよ。」
 マヤは強気になる。この報道は必ず突破口になるはずだ。
 しかし、クエンティンはいたって冷静だった。
「解放?ちょっと甘いんじゃない?
 今、貴女を殺さないのは、ただ単に後処理が増えて面倒なだけよ。貴女が余りにも強情
なら、しょうがないから残業をするだけのことよ。」
 クエンティンの当初の予定からは、かなりずれた結果になっているのだが、クエンティ
ンの表情にはまだまだ余裕がある様子だ。

10:14
 コンコンコン
 マヤとクエンティンの会話に割り込んでドアがノックされる。
「開いてるわ。」
 クエンティンはドアに向かって呼びかける。すると、あの赤い鎧のヒュームが入ってく
る。
「ちょっとよろしいですか。」
 赤い鎧のヒュームがクエンティンを呼ぶ。縛られているマヤをわずかに見たが、全く意
に介さない。このヒュームは完全にクエンティン側の人間の様だ。
 赤い鎧のヒュームはクエンティンに耳打ちをしている。話している内容は聞こえず、口
を隠して話されているから話の内容は見当つかない。
 だが、その話が終わると、サリットの隙間から僅かに見えるクエンティンの唇が噛みし
められているのがわかった。
 マヤは自分には朗報、ミスラには凶報なのだろうと予測する。
「失礼しました。」
 話し終えると赤い鎧のヒュームは部屋から出ていく。今度はマヤの事を一瞥もくれない。
まるでマヤが存在していないかの様だ。

10:18
 クエンティンは考え込んでいる。赤い鎧のヒュームが出て行ってから一言も発していな
い。
 腕を組んだりアゴを撫でながら狭い部屋を行ったり来たりしている。
「ちょっと、今のヒュームは何なの?」
「黙ってなさい。」
 マヤが問いかけると一蹴される。クエンティンの声色には怒気が含まれている。このミ
スラはあの不気味な両手鎌を持っているため、余り刺激しない方がいいとマヤは判断する。
 クエンティンは考える、何でこの様な事態になったのか。当初、自分が計画してた大き
な歯車、計画遂行中にはどうしても絡んでくるイレギュラーな小さな歯車。
 基本的にこの二つの歯車は噛み合うことは少ないが、二つの歯車が全く噛み合っていな
い。こんな事は初めてだ。
 今までに多少、想定外な事態が起きたことはあった。しかし、今回ほどの事態になった
ことはない。クエンティンは、なかなか判断をできない。情報が足りない。
 クエンティンは無言で部屋から出て行った。

10:24 マヤパート

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