11:00
 ざわめき声が次第に大きくなる。
 それもそのはずだ。冒険者にとって青白く光る武器は珍しいのだ。
 クエンティンは辺りを見回す。
「おいおい、いったいどういうことだ?青く光っているじゃないか」
「ええ、どうしたんだろう」
 クエンティンは声の方を向く。どうやらガルカとエルヴァーンのペアのようだ。
 エルヴァーンの手元をみる。青白く光る短剣を持っている。
「っち、原因はあれか」
 クエンティンは悟る。
「……?おい、ウエバー見ろ」
「なんでしょう。あの鎌は?」
 短剣を持つ2人組がこちらに気がついた。どうやら、エルヴァーンの方はウエバーとい
うらしい。
 クエンティンは踵を返し、螺旋階段を駆け下りる。
「お、おい。ちょっと待ってくれ」
「あの、聞きたい事が」
 後ろで2人がわめいているが、気にせず螺旋階段を駆け下りる。
「おい、ウエバー。追うぞ。何か分かるかもしれない」
「はい」
 ウエバーとマットアラストも螺旋階段を駆け下り、鎌を持つミスラを追う。

11:06
クエンティンは更に螺旋階段を駆け下りる。
 先ほどの2人組は追ってきているようだ。感覚的に分かる。
「マット、ジュノ港通り越しましたよ。この先は何があるんですか?」
「クフィム島に続く洞窟だ」
 話し声が聞こえてきた。ガルカの方はどうもマットという名前のようだ。
「おい、そこのミスラ。頼むから止まってくれ」
 止まる気が無いから走っているのだろう。クエンティンは心中で思う。
 螺旋階段が終わり、角を曲がると白いタイル作りの壁が一転して、土がむき出しのまま
の洞窟にでる。
 クエンティンは洞窟を走る。
 後ろの2人組はまだついてくる。
 仕事柄、恨まれる理由が多すぎるクエンティンだが、追われる事はない。なぜなら、第
一に顔が割れていなければ、今後危険因子になる可能性のある者は全てヘルロンドで消し
てきた。
 だから、2人組が追ってきている理由はクエンティンではなく、やはりヘルロンドだろう。
 あのエルヴァーンが持っていた探検も青白く光っていた。もしかしたら、あれも追憶の
戦器の1つかもしれな。だが、興味はない。
 ウエバーとマットアラストは全力でミスラを追う。
 マットアラストは冒険者、ウエバーも毎日クリルラに稽古を受けていたため体力はある
ものの、いい加減辛い。
 ウエバーは走りながらも、精神を集中させる。
「……!!なっ……うわ!」
 クエンティンは突如、体が前のめりになりながら足が止まる。
 体が動かない。足が土と一体化してしまったような感じだ。
「まさか、バインド?」
 クエンティンは僅かに困惑する。後ろの2人に注意を払っていたからわかる。魔法を詠
唱していた仕草はなかった。
「はあ、はあ。手荒な真似をしてすいません。貴女にどうしても聞きたい事が」
「待て、ウエバー。あのミスラの鎌が不気味だ。ミスラの攻撃範囲内に入るな」
 マットアラストが肩を掴んで止める。
 バインドを決められたのだから仕方が無い。顔が見えないよう、2人には背中を向けて止
まる。
「あんたのその鎌、追憶の戦器だろ?俺は狩人だ。遠距離攻撃で狙われたらまずいんじゃ
ないのか?」
 マットアラストは腰から銃を取り出す。
「お願いします。魔法をかけた事は謝ります。だから少しだけ話を聞いてください」
「追憶の戦器を知っている冒険者なんて、久しぶりね」
 ウエバーが懇願する。両親へ繋がる手がかりが、こんなにも早く手に入るかもしれない。
「ふう……バインドをかけたのは貴方?大したものね、詠唱無しに魔法を発動させるとは」
「え?ええ。実は僕、タルタルとエルヴァーンのハーフなんです」
「そう、面白いわね」
 クエンティンは、横目でちらりとウエバーの顔を見る。
「あと、魔法がかかるのは、貴方も一緒よ」
 その刹那、クエンティンは魔法を詠唱。一瞬で発動。
「う……うわ」
 ウエバーの視点が歪み霞む。急激な吐き気を催し、膝を付く。
 クエンティンは懐から小さな小瓶を取りだし、中の液体を飲む。そして、バインドの効
果が切れた瞬間、さっき走っていた倍近くの早さで走って行く。シーフではなくても、と
んずらの効果を得ることができる妙薬エルメスクエンチャを服薬した。
「くそ、しまった。ウエバー大丈夫か?」
「う……追わなくちゃ」
「だめだ、いっちまった。くっそ、これはバイオだな。イレースはない。治るまで待つし
かないな」
「くっそ……こんな時に」
 マットアラストは、ウエバーの肩を持ち座らせる。
 ウエバーは悔しそうにうな垂れる。
 ミスラの姿はもう見えない。

11:34 ウエバーパート

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